突然春は跳ねる #01

 うるさい。学校はいつもにぎやか。子供が集まるんだから当たり前だ。静かだったらおかしい。仕方ない。私も雑音の一部なんだろうし。今は縮こまって教室の席に座って黙ってるけど。
 私の席は一番窓側で後ろから二番目。風の吹く音がよく聞こえる。たまに先生が換気だって休み時間に窓を全開にする。寒すぎて室内でもマフラーを巻いてじっとしてる。でも空気が入れ替わると本当に頭がすっきりするみたいだったからやる意味はあるんだと思う。
 だけどこの席で寒さに耐えるのももう数日で終わる。卒業式が近づいている。もうすぐ春が来る。高校生になる。

 自由登校の期間はすることもないし家にいても良かったけど、親と友人に言われて私は学校に来ていた。私に来るよう言った友人はまだ登校してない。損した気分。
 ぼうっと窓から外を見る。空はどんより曇っている。風もどんどん強くなっているみたいだしもう帰ろうかな。
「いわちゃん、呼ばれてるよ」
「ん?」
「ほら、あの子」
 クラスメイトの指差す方を見ると教室の前のドアに肩を越す二つ結びのかわいらしい女子が立っていた。知らない人だ。なんだろう。
 立ってそちらへ行く。廊下から風が入って来る。寒い。
 私が近づくとその子はパッと表情を明るくして大きな声で言った。
「イワイさんですか⁉」
「そうですよ」
「はじめまして! 六組の長山って言います!」
「はあ」
 六組から一組まで遥々なんの用だろう。同じ組になったことはないし友人の友人だろうか。見覚えはない。
「あのね、あたしも春からイワイさんと同じ高校に行くの!」
「えっ」
「さっき先生に聞いたんだぁ。まさか自分以外にも同じとこ進学する子がいるなんて思ってもみなかったから。一人で心配だったから嬉しかったの」
 ひどく話し方の幼い子だと思った。先生も勝手に人の進学先を他人に伝えるなんて無神経だと思う。
「イワイさんは体育科なんだよね? あたしは美術科!」
「それじゃ……」
 同じ高校に行くって言っても科が違うと会う機会はそんなにないと思う。この中学と比にならないくらい高校の敷地は広くて生徒もたくさんいる。
 中学の三年間、私と長山さんは今日まで会うことがなかったのに高校で交流することなんてあるのかな。
「もし良かったらイワイさんや体育科のこととか教えてくれたら嬉しいです! これからよろしくお願いします!」
「はい。よろしく」
 にこにこしながら長山さんはお辞儀をして跳ねるように去っていった。元気な人だ。

「さっきの子、なんだって?」
 私が席に戻るとクラスメイトが寄ってきた。
「高校が同じだからよろしくって」
「そうなんだ! 律儀~」
「ね」
 知り合いがいない方が楽かも。そう考えてたから長山さんの存在はちょっと億劫に感じた。
 でも、どうせそれぞれに友達ができてすぐに疎遠になるだろう。きっとこのクラスメイトとも会わなくなる。同じクラスだからこうして話すだけだ。
「外、雨降りそ~」
「うん」
 雨が降ったらもっと寒くなる。傘は持ってない。決めた。友人を待つのはやめよう。降ってくる前に走って帰ろう。