君よ動けるならば #03

 高砂君が転校してきて数日経った。彼は上手くやっているようだった。
 困ってる状況でも自分から周りに救いを求められるタイプだった。週番の意味や部活動の内容をクラスメイトに尋ねているところを見かけた。そして不慣れな転校生にみんな親切だった。

 帰り道、花ちゃんに高砂君をどう思うか訊かれた。
「高砂君? まだ話したことないからよくわからないな」
「あのね、昨日の帰り……ヨモギ畑があるでしょ?」
 学校のそばに空き地がある。立ち入り禁止のチェーンがかけてあるそこにはヨモギを中心に色々な植物が茂っている。定期的に業者が来て機械で刈ってるけどすぐに生えてくる。
「あそこで高砂君がヨモギを採ってたの」
「草団子にするのかな」
「そのまま食べてた。変な子なのかな。どう思う?」
 確かに僕はそんなことしないからおかしい行為に感じるけど、昔、お父さんが学生の頃に野いちごか何かを食べながら学校に行っていた話を聞いたことがある。それと同じことかもしれない。
「ふふ……」
「何? 柴、どうしたの?」
「小学生の時、僕がツツジの蜜を吸ったら花ちゃんに引かれたの思い出した……」
 そんなこと絶対にしない子もいたけど自然の甘さを味わう子も少なくなかった。ただ、やはり花がかわいそうなので狩り尽くしはしなかった。
「そんなことあったっけ……? 花を食べる文化があるなんて知らなかったからびっくりしたんだよ」
「初めて見れば驚くよね」
 僕が笑うと花ちゃんは少し赤くなった。

「お尋ねします。シチョウカクシツとは校内にある場所?」
 休み時間にトイレから教室に戻ると高砂君に質問をされた。彼の姿を見て少し驚いた。ヨモギの話が頭に過ぎる。
「うん、視聴覚室あるよ」
「どこ?」
「次の授業は視聴覚室に移動だもんね。一緒に行こうか」
「うん! ありがとう!」
 彼は嬉しそうににこにこした。
「シチョウカクシツが何をする場所なのか知らないんだ。シチョウカクしますか?」
「大きい画面で映像を見る場所……かな。オーディオビジュアルルームのことだよ。でも今は他のクラスと合同で座学する部屋になってるよ」
「ほん」
 高砂君は独特な相槌をした。

 僕が高砂君と会話をしたのはこれくらいだった。でも高砂君の話はよくする。花ちゃんがしてくるから。
 この日の帰り道でもそうだった。
「高砂君、セーラー服着てたよね?」
 この季節、男子はワイシャツにスラックスだ。それなのに高砂君は花ちゃんと同じ夏のセーラー服を着ていた。つい昨日までは僕と同じ格好をしていたのに。
「先生もみんなも全然気にしてないみたいだった……そのことにも私は驚いた……」
「女子用の制服を男子が着たら駄目って校則はないんじゃない? 叱られるようなことじゃないかも。生徒手帳に書いてあるかな? 読む?」
「ううん」
 花ちゃんは腑に落ちないようだ。
「似合ってたね。高砂君って背が小さくて顔も女性的だからかな。あんまり違和感がなかったかも」
「似合ってるなら男子もセーラー服でいいと柴は思う?」
「似合ってなきゃ駄目なんて言わないけどさ。本人が着たい方を選べればいいのかな」
「それなら私もいいなって思う」
「難しいね」
 花ちゃんは下を向いて足元の小さい石を軽く蹴った。きちんと当たらなかったので遠くに飛ばなかった。近くの側溝の蓋の隙間に小石は落ちた。