君よ動けるならば #04
日曜日に花ちゃんの家へ行った。呼び鈴を鳴らしてしばらくすると出てきた。Tシャツにショートパンツ姿で普段は後ろで結んでる髪も下ろしていた。
「どうしたの?」
「これ、お父さんが出張先で買ってきたお土産。花茶屋さんにって」
「お~……ありがとう……お菓子? 二箱あるし今食べちゃおうかな。お茶淹れるから入って」
「お邪魔します」
花ちゃんと一緒に暮らしてる親戚の夫婦はいつもいない。二人して夜遅くまで仕事しているのだという。
それでいて旅行が趣味だから花ちゃんはあまり構ってもらえていないんだと思う。だから僕の家族も花ちゃんをちょっと気にかけている。
「お茶なかった。コーラでいい?」
「うん」
彼女の部屋は質素だ。僕のお姉ちゃんなんてぬいぐるみや服で部屋がいっぱいなのに必要最低限な物しかない。
「柴、あの、これさ」
机の横にかけてあった大きい手提げ袋から布を出して僕に見せた。柄が何種類もある。
「なになに? 手芸部で使う布?」
女子の友達に誘われて花ちゃんは手芸部に入っている。
「そう。これでさ、何を作ればいい? どれがいい?」
「え?」
花ちゃんは腕を組んで悩んでいる。
「部活で自由に好きなもの作るの。なんでもいいの。柴は何がいいと思う?」
「え~……花ちゃんが作りたいもの作ればいいんじゃない?」
「柴が欲しいものを作ろうと思って」
「え⁉」
予想外のことを言われて僕はうろたえた。
「友達がね、お母さんにエプロンを作ったんだ。いつも使ってるのに大きい穴が開いちゃったからって。そしたらすごく喜んでくれたんだって。私も真似したくなった」
「そうなんだ」
「私より上手な手芸部の友達に手作りをプレゼントするのはどうなのかなって考えたのね。それで思いついたのが柴。何か必要なものある? 私が作れる範囲で」
「どういうの作れる?」
「この手提げも私が作った! でもすっごく難しかったからできたらもう作りたくない」
「あはは」
あまり大きくなく、形も複雑じゃないもの。パッと一つ思いついた。
「ブックカバーなんてどう? 僕、本読むし」
「ブックカバーか……柴って変な本読むの?」
「変な本?」
「だって読んでる本の表紙とかタイトルを隠したいんでしょ?」
「違うよ! 本を汚さないようにつけるんだよ。エプロンと同じ用途じゃないかな?」
「なるほど」
そう言って花ちゃんはスケジュール帳のフリースペースにメモをした。これは僕が去年のクリスマスにあげたやつだ。使ってくれていて嬉しい。
「普通のサイズの?」
「うん、一般的な文庫。新書は滅多に読まない」
「ふーん。柄はどれがいい?」
シンプルな柄が多い。全部、花ちゃんが選んだのかな。
「これがいいな。紺のストライプの」
「これね。わかった。先生にも相談するから時間かかる。あんまり期待しないでね」
本屋さんに行って次に読む本を選びたい。僕はワクワクしっぱなしだった。