君よ動けるならば #05
たまに花ちゃんと学校帰りに公園で遊ぶ。ここら辺で一番小さい公園で遊具も少ないけど僕らにとってはお馴染みの場所だ。
珍しくブランコが空いていたからベンチ代わりに座ってゆらゆら漕いでいた。
「柴、もしもさ、学ランは男子でセーラー服は女子っていう決まりがなかったらどっちを選ぶ?」
高砂くんの話だろうと思った。
「やっぱり学ランかな。黒くてかっこいいしズボンのが動きやすそう」
「……今日、高砂君に最近なんでセーラー服着てるの? 誰にも何も言われない? って訊いたの」
「なんて言ってた?」
「制服が男子と女子で分かれてるって知らなかったって。先生にも特に注意されないみたい。二種類あるからどっちも着てみたかったんだって」
「知らなかったんだ……花ちゃんはその後に何か言った?」
小学生の頃から花ちゃんはブランコの漕ぎ方がおかしくて今も足をバタバタさせている。
「男子は男子の制服の方がいいよって言った。どうしてもセーラー服がいいって理由がないなら」
「納得してた?」
「……うん」
標準的な特徴のない学ランとセーラー服。どっちを着たいかなんて考えたことない。小学生の頃から兄たちと同じ学ランを着るものだと思っていた。
「僕がセーラー服着たら変?」
「えっ。柴も着たいの?」
「着たくないけど、もしもの話だよ」
「そっか……うーん。変じゃない、と、思うよ」
きっと気を遣ってる。高砂くんのことを気にしてるから僕が着たって花ちゃんにとって違和感があるはずだ。僕だって似合ってると言われても嬉しくないのが正直な思いだ。
「……上が学ランで下がスカートってどうかな? 上下の組み合わせも好きに選べたら楽しそうじゃない? 高砂君はコンプリートしそう」
「セーラー服にズボンは本当の水兵さんみたい」
僕の思いつきにくすくす笑って花ちゃんは漕ぐ足をバタつかせる。
「うちの上のお兄ちゃんと下のお姉ちゃんが同じ高校なんだけど、男子と女子じゃブレザーのボタンのついてる位置が逆なんだよね。あれはどうしてだろう」
「知らなかった。違いがあるんだ」
「洋服の歴史の名残なのかな~」
僕はブランコから降りた。花ちゃんも僕に続いて立ち上がる。
「もう帰る?」
「うん。そろそろ。今日はお父さんがいつもより早く仕事から帰ってきてコロッケ作るんだ。花ちゃんもおいでよ」
「コロッケ……」
「うちのお父さん揚げ物作るの好きなの、花ちゃんも知ってるでしょ? 一日じゃ食べられない量作るからさ」
「わかった……お邪魔する……」
「ついでに宿題も一緒に済ませちゃおうよ」
「うん」
僕たちがブランコから離れると縄跳びで遊んでいた二人の小学生の子たちがすぐにブランコを漕ぎ出した。二人乗りだ。僕たちもそんな乗り方をしていた。こうして見るととても危ないように感じる。あまりスピードを出すと座ってる花ちゃんが怖がるから全力は出さなかった。
危ないことはしなければいいんだけどすっごく楽しかったんだ。もうしないだろうな。やっぱり危ないことは怖いから。