君よ動けるならば #09
くじ引きで席替えがあった。なんと僕の隣は高砂君だ。
花ちゃんは前の方に行った。今まで同じクラスになれても席は近くになったことがない。
窓側の後方まで自分の机を動かす。
「なんかここら辺あんま変化ないよな」
高砂君の隣だった深川君が今度は彼の後ろの席になった。
「深川君、僕の後ろなんだねぇ。もう起こしてあげられないよ。寝ちゃダメだよ」
「寝ねえよ」
「寝てても私は起こさないからね」
深川君の隣は堀切さんだ。堀切あやめさん。花ちゃんの親友。
「堀切うるさいから絶対寝ない」
「どうかな」
こうして高砂君、深川君、堀切さん、僕で新しく班が組まれた。給食や掃除の当番はこの四人でやることになる。
お昼。班ごとに机を合わせた僕たちは給食係がカートを押して教室へ来るのを待っていた。
「高砂は給食のカレー初めてだよな? 美味いぞ!」
「カレー? 名前は知ってるけど食べたことない。どんな風味?」
「え⁉ カレー食べたことないの⁉」
深川君以外にも僕も堀切さんも驚いた。話が聞こえていた隣の班の人たちもこっちを見ている。
「アメリカじゃカレー食べないの?」
「カレー味の何かも食べたことない?」
「僕の家では食べないね」
「アメリカも広いから色んな家庭があるんだね……」
「カレーは美味しい?」
三人とも頷く。大人気メニューの一つだ。大抵の生徒は楽しみにしている。
「どんな料理かなぁ」
いよいよ配膳されたカレーと高砂君は対面した。
「香辛料が、すごいね……?」
「ターメリックとかクミンとか有名どころは入ってるんじゃない?」
「高砂、もしかして辛いの苦手? 給食のはそんな辛くないよ。安心しな」
クラス全員が席に着いて給食係の「いただきます」の後に続いて言った。
高砂君はルーをご飯にかけずスプーンですくって一口食べる。僕たちはその様子を見守った。
「かっっっっっ」
「大丈夫⁉」
「牛乳いる⁉」
「高砂ーーー!」
口に入れた瞬間にむせて咳きこんだ高砂君の背中を深川君がさすった。
「変なとこ入ったか?」
「口の、中が、ビリビリ……」
「どんだけ辛いの苦手なんだよ~」
先生も何があったのかとやって来た。高砂君は涙目になって口を押えたままだった。僕たちが事情を話すと先生は無理して食べなくていいと言った。
落ち着いた高砂君にストローを刺した牛乳を渡すと一気に飲み干した。
「高砂、一口しか食ってないよな? お前のカレー俺がもらっていい?」
「うん」
「サンキュー!」
深川君の給食が豪華になったと同時に高砂君のトレーは寂しくなってしまった。
「白米にポテトサラダだけってかわいそう……」
「平気だよ! 僕、お米と野菜大好き!」
回復した高砂君はもりもり白米を食べる。堀切さんは大層憐れんでいた。
「私のポテサラ少し食べる? 量だけでも食べた方がいいかも」
「くれるの?」
「僕のもいる? まだ箸つけてないから」
「柴又君もありがとー!」
「えー⁉ 俺だけ強奪じゃん! 俺のもいる? そんなにいらんか?」
「いる!」
こんもりと盛られたポテトサラダを満足気に見つめて高砂君はご機嫌だった。もらった分を食べ終えた後にお代わりもしていた。
あれだけ食べてお腹がいっぱいになったのか午後の授業は船を漕いでいたので僕は肩をつついて起こそうとしたけど意味はなかった。