君よ動けるならば #12

 どんより曇った日。期末テストが近づいている。
 それなのに英語の宿題が大量に出されてしまった。テスト範囲だからしっかりやるよう言われたけど多すぎる。他の教科を重点的に勉強したい人には迷惑なはずだ。
 風邪のせいで授業に遅れが出ている花ちゃんに教えながらその宿題を彼女の家で一緒に片付けることになった。

 英語が言葉なのはわかっているけどアルファベットは文字というより記号にしか見えない。暗号の解読じゃなくてきちんと言語として自然に読み取れるようになりたい。
 そういえば高砂君は英語を話せるし聞き取れるみたいだけど、どうも小テストの点数は良くないようで僕に解説を求めることがある。不思議に思ってたけど僕だって日本語は話せるけど漢字の勉強をしなければ読めないし書けないから同じことなのかもしれない。
「疲れた……休憩しよう……」
「そうだねぇ」
「柴は水ようかん好き? 食べられる?」
「好きだよー」
 花ちゃんは冷たい麦茶と一緒に水ようかんを出してくれた。どちらも美味しい。初めて花ちゃんちで飲んだお茶はとっても冷えててすっごく濃かった。よく覚えている。
「私、普通のようかんのが好きかも」
「水ようかんの方があっさりしてるね。僕はどっちも好き。花ちゃんはなんでもはっきりした味のものが好きだよね」
「うん。今の時季、さっぱりした素麺もいいけど私は焼きそばが好き」
 最後の一口を食べて花ちゃんは立ち上がり学習机の横にかけてあったカバンを持ってきた。
「あのね、これできたよ」
 小さい紙袋を出して花ちゃんは僕に渡す。
「風邪引かなかったらもっと早く完成する予定だったんだ」
 受け取って中を見るとブックカバーだった。以前約束していたものだ。
「すごい! しおりの紐も付けてくれたんだね! すごいすごい! 作るの大変だった?」
「頑張った!」
「ありがとう。大切に使うね」
「うん!」
 いつ渡そうかソワソワしていたと言う花ちゃんをかわいいと思う。それでも僕の中で答えは出ていない。
 花ちゃんは僕をどう思ってるのだろう。高砂君が言っていたことは本当なのか直接聞きたかった。それ以外にも聞きたいことがたくさんある。
 気になって昔はよく眠れなかった。今はそうでもない気でいたけどやっぱり知りたい。訊いたら花ちゃんはまた泣いてしまうかもしれない。僕を嫌って僕を忘れてしまうかもしれない。それは絶対に嫌だ。でも同じくらい知りたい気持ちが大きい。いつも僕は挟まれる。
「柴、どうかした?」
「花ちゃんてさ」
「うん」
 その時、インターホンが鳴った。
「誰だろ」
「あ、おばさん帰ってきた? 僕もう帰るよ。宿題の続きはまた明日にでも」
「いや、違う……」
 外の様子をうかがいながら花ちゃんは「はーい」と言って玄関へ向かった。

「こんばんは! まだ真っ暗じゃないからこんにちは? こんにちは!」
 高砂君だった。頭に葉っぱが乗っかっている。
「柴又君の家に行ったんだ。夕飯までに帰ってこいって家の人が言ってたよ」
「そっか。僕に何か用だった?」
「うん。今日は夜から晴れるから柴又君に会いに来た。でも、そうだね。ご飯を食べてから行こう。花茶屋さんも行こうね」
 あれよあれよと話が進んだ。僕たちは夜八時半に公園で一緒に星を見ることになった。