無理にきかないで #09
「さっきの誰? 女の声だったな。恋人がいたの?」
「部活の先輩だよ……」
夕方に先輩から少年に電話がかかってきた。部活動の緊急の連絡だ。短い文字数で伝えられる内容だったが先輩の気まぐれにより電話で知らせが来た。
「電話終わってからぼんやりしてるな。その先輩はかわいいの? 片思い?」
「ただの先輩だよ」
「オレならその恋、叶えられるんだけどなー」
「やめて。そういうのではない」
「本当に?」
「本当だよ。それにそんなんで付き合えても嬉しくないよ」
「どうして」
「魔法で好かれても悲しいだろ」
「そう? 結構いたけどなぁ。好きな人と付き合いたいとか結婚したいとかセックスしたいとか。全部叶えてきたよ」
どう見ても子供のなりをしてどう聞いても子供の声をしているヨウコからふさわしくない言葉を聞いた少年は驚き、居心地が悪くなった。
「ヨウコでもそういうこと知ってるんだ」
「オレは大人なんだ。子供の君より知っていることがたくさんあるんだよ」
「子供かぁ」
「子供だろう?」
「まぁ未成年だけど。高二だよ。限りなく大人に近いでしょ」
「……ふふ。子供の君がもっと幼かった頃、君はどんな子供だった?」
「えー……なんだ突然。普通だよ」
幼い頃の少年は人見知りもしなければ特別愛想がいいわけでもなかった。親の話によると家でも保育園でもよく寝ている子だったらしい。
「保育園の時なら親が早く迎えに来ますようにって願ってただろうな。昔っから共働きで忙しかったんだよね」
「ほう」
「最後の一人になりたくなくて。早く来てってずっと思ってた。さびしかったんだな」
「よく一人で留守番できるようになったな」
「いや、流石にね。もう高校生ですから。ヨウコは俺が学校行ってる間さびしくない?」
「テレビも本もあるから退屈はしてない」
「そうですか……あ、そうそう」
昔のことを思い出すと芋づる式で色々思い出された。
「あの頃は弟か妹が欲しかったんだよな。仲いい子みーんな、きょうだいいて羨ましかった」
「今からでも遅くないぞ!」
「遅いよ」
「年の離れた弟妹はきっとかわいいぞ」
「いりません。年近い従弟いるし今はヨウコで手一杯」
「なんだ? お兄さん気取りか」
楽しそうにしていたヨウコはムッとした。そんな彼を見て少年はしたり顔をして笑う。
「まぁね」
「ふん。そう思ってるなら勝手に言ってろ」
「はは。ヨウコの家族はどんな人? みんな魔法使いなの?」
「……あんまり、オレのこと質問しないでくれ」
「へ?」
ヨウコの表情は冷え切っていて突き放された少年は戸惑った。
「わかった。ごめん」
「いや、君に話してもつまらない話だ。知っても意味がないんだ。君は自分の願い事だけ考えてくれ」
「……そう」
ヨウコのことを知ったからどうということもないはずだ。それなのにずるいと少年は思ってしまった。