拘りと嵌まり

 私は釣り竿一本で辛抱強く一匹でいいから魚を釣り上げようとしている
 時たま痺れを切らして水中を乱暴にかき混ぜてしまう
 ところが君は大きな網で一気に取って残りを丁寧にすくい上げる
 取りこぼしを見逃さない
 私も大人しくすくわれた

 誰かが真の友になってくれるのではないかと
 期待しては二度と近寄れなくなる
 至って普通の仲違いなのかもしれない
 私が一方的に傷ついてるだけで喧嘩とさえ思われていない可能性もある
 とにかく私は咄嗟に謝絶し相手は自然と離れる
 その繰り返し
 人に対する言葉遣いや態度を変えようと試したこともある
 方法が間違っているのか
 結局自分にも他人にも裏切られるのだった

 君はいくつもの外国語を使いこなしているわけではない
 それなのに君の世界は広い
 私にも扱える言葉で多くの人と繋がれる君に敬意を抱くと同時に畏怖した

 君のことも見込み違いだと諦めたことがある
 それでも君は私との対話を試みた
 一度や二度ではなかった

 自然体でおおらかな君の細やかな気遣いによって
 君は私を君の周囲の一部にした
 私もまた君から離れがたかった
 優しく聡明な君のそばは心地よかった

 君を手放せずにあっという間にここまで来た
 一生涯の友になってくれたね
 どうしても欲しかった
 一人でいいから私に釣られて私をすくう誰かと出会いたかった
 あとは焼いても煮てもいい
 たくさんのことを話してくれて嬉しかった
 友情というものがあるのだと信じさせてくれて
 感謝している
 心からありがとう


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 いつも一人でいるから目についた。好きで一人でいるのか。孤立してしまうタイプなのか。
 どう声をかけようか考えてるうちに誰かとくすくす楽しそうに話している。そしてしばらくするとあなたはまた一人になっていた。人が去って清々してるのか、さびしく思っているのか判断のつかない顔をする。
 私は確かめたくなっていた。話してみれば受け答えはごく普通のものだった。もっと変な人なのかと思った。今思い返せば孤独を壊したのは私なのだろう。
 だたやはり人付き合いは得意ではなさそうだ。無理に話しかけることは避けた。挨拶を交わすだけの日もあった。
 大きな輪に入れることもよした。あなたと私は一対一がちょうど良かった。

 しばらくは私の話にあなたが相槌を打つだけだった。少しずつ会話らしい会話ができるようになった。
 好きなことを話すあなたは楽しそうだ。笑顔を見ながら話を聞いていると私の視線に気づいて話しすぎたと恥ずかしそうに謝った。人間が嫌いというわけではない。内気なだけで謙虚な人なんだと気づいた。
 かと思えば声を上げて人に抗議することもあった。私はその場にいなかったから詳細はわからない。本人に尋ねても頑なに話そうとしなかった。
 いつも物静かなあなただ。余程のことがあったのだろう。内に秘めた激情があったなんて思いもしなかった。
 知れば知るほど知らないことも見えてきた。私は全て拾い上げたかった。

 あなたは友情を探していて私にそれを求めた。そう言われたわけではない。けれど近くにいれば感じずにいられない。あなたと私の深さは違う。
 あなたと私は友愛の世界にいた。留まるか出ていくかしかなかった。あなたが私を閉じ込めた。
 ここまでと線を引かれて目の前のあなたを抱きしめることもできない。あなたはどうしようもなくかわいい。私は近づきたいのだ。優しさをそういう行為で表わしたい。
 行動してしまえばきっとあなたは距離を取るはずだ。口には決して出さない。許されるわけがない。あなたの目を見ればわかる。私は信用されている。そんなことしないと。あなたは疑ってもないのだろう。信頼に応えて私は友を選んだのだから。
 耐えられたのはあなたには私以外、本当に友人がいないようだったから。私の知らないところで親しい人物がいたかもしれないが私のあずかり知るところではなかった。全部わかりたいのに怖かったので目を背けた。あなたの純粋な目が怖くなっていた。

 私の我慢は正解だっただろうか。勇気を出さない言い訳にできたか。隠し事は隠し続ければ存在しないと同じか。
 息苦しい。けどあなたと笑い合えるうちは呼吸はできる。そうやってやり過ごしてあなたの欲するものを本物にするしかないのだった。